判断・断定(2);準体助詞「の」
前日の続き。経過はよく理解できなかったのだけど、現代日本語の準体助詞を「ノ型」「コト型」に2分して、また勝手な現代語訳をつけて、その屋上屋に意味不明な日本語理論を展開している例がみつかった。添削をしておく。
19 a ;いみじき愁へに沈むを見るに、たへがたくて(源氏物語・明石)
著者訳;たいそうな悲しみに沈んでいる【の】を見ると、見るにしのびなくて
添 削;(あの方が)たいそうな悲しみに沈んでいる【ところ】を見ると、(私の方は)見ているのがしのびなくて
19 b ;いみじう泣く人あるをききつけて、とどめてとりかへし給うてけり(伊勢物語・六段)
著者訳;ひどくなく人がいる【の】を聞きつけて男が連れて行くのを引きとどめて、取り返しなされたのだ
添 削;ひどくなく人がいる【ところ】を聞きつけて男が連れて行くのを引きとどめて、取り返しなされたのだ
古文を扱う場合も現代日本語をきちんと観察してからにして欲しいものだ。 |
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1,日本語では構文の中で「とき」「ところ」が入れ替わりやすい
2,「こと」「とこ(ろ)」は逆語序関係にあるのだから、密接な関連を絶えず意識して観察する必要がある。
3,「こと」の対語である「もの」の語源が不明であるから、分析の途中でもそのことから注意をそらすべきではない。むしろ分析によって「もの」の語源が明瞭になって来るような方法を開発すべきである。
4,現代日本語では【の】に近いのは【ん】であるから、【の】について分析するためには以下の繋がりの中で分析する必要がある。
【ん】 | 【こん】 | 【そん】 | 【もん】 |
【の】 | 【この】 | 【その】 | 【もの】 |
【と】 | 【こと】 | 【そと】 | 【もと】 |
【 】 | 【とこ】 | 【とそ】 | 【とも】 |
次に出てくる例文は上記の総覧を確認するのに格好の材料である。例文において何が自然かというのは、多くの読み手が共有する特定の文脈からもたらされるのであって、それが文脈と独立であるべき統語文法に還元できるとはかぎらない。
20a;太郎は飛行機がふもとに墜落する の/*こと を見た
展開例;太郎は飛行機がふもとに墜落する【とこ】を見た
;太郎は飛行機がふもとに墜落する【ときに】【何か】を見た
;太郎は飛行機がふもとに墜落する【こと】を【夢で】見た
;太郎は飛行機がふもとに墜落する【もの】と見た
20b;私は太郎がピアノを弾く の/*こと を聞いた
展開例;私は太郎がピアノを弾く【とこ】を聞いた
;私は太郎がピアノを弾く【ときに】【何かの音】を聞いた
;私は太郎がピアノを弾く【こと】を【誰かに】聞いた
;私は太郎がピアノを弾く【もの】と聞いた
接語助詞の基本機能をわからなくする文法説明はゆるされない |
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以下の五つの命題文には明瞭な差異があり、それを支えるのは接語助詞の機能分担によっている。
1,AとBとを食べる(2つあって2つとも食べる)
2,AもBも食べる(2つあって2つとも食べる)
3,AかBかを食べる(二つあってどちらか一つをたべる)
4,AのBを食べる(とにかく一つを食べる)
5,AがBを食べる(第一義はAを主語とする。次に3,と同義)
構文では以下。
1,Aをする。Bになる。(単なる継起現象で予見が話し手にはない)
2,Aをする【と】、Bになる(予見の表明)
3,Aをする【も】、Bになる(予見が実現しない)
4,Aをする【が】、Bになる(予見が実現しない)
5,Aをする【ので】、Bになる(因果関係を想定)
6,Aをする【のに】、Bになる(因果関係の否定)
5',Aをする【もの】で、Bになる(因果関係を想定)
6’,Aをする【もの】の、Bになる(因果関係の否定)
5",Aをする【こと】で、Bになる(因果関係を想定)
6",Aをする【こと】の、Bになる(非文)
5"',Aをする【とこ】で、Bになる(予見)
6"',Aをする【とこ】の、Bになる(句であって非文;AをするところのBになるムニャムニャ)
用語;命題文(単文)⇔構文(複文)
用語;7つの構文(複文);継起・順接・逆接・予見・因果・取り立て・陳述
二つのとりたて構文;こっちとこっちと【では】、こっちの方がいい。⇔ A【なら】、Aの中のBがいい
二つの陳述構文;私には【命題】、と見えた(/聞こえた/思えた)⇔ 私は、【構文】と考える(/言明する)
参考文;「ある実務者の論理」 http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/russell.pdf
気 | 気がする | 気がした | ||
事実 | 五感による一つの命題 | 見えた・聞こえた・味がした・臭いがした・手触りがあった・気がした | ||
判断 | 二つ以上の命題を統合 | 思った・考えた・気がした | ||
断定 | 考えた結果を検証 | あえて発声する |