北斎の「江戸六景」か

オランダのライデン国立民族学博物館に所蔵され、長く作者不明だった6枚の絵が江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849)による西洋風肉筆画だったことが、昨年判明したという記事に出てくる六枚は江戸の風俗浮世絵であるが、1枚だけは原画は存在せず石版画とされている。
https://www.nishinippon.co.jp/feature/attention/article/346252/
北斎の黒白絵と言えば「風流無くて七くせ」の1枚「ほおずき」が黒白絵と色絵の二種類が残残されていることを想起する。当然「ほおずき」ならば音が聞こえてくるのだから黒白絵の方が効果的だったはずで、こちらを正として考えてもいのでは、と長年考えてきた。 https://ja.ukiyo-e.org/image/ritsumei/Z0170-060
だが、浮世絵の初学者向けの書物ではこのような黒白絵の存在を記載するものは少ない。最近見つけた『江戸の絵本―画像とテキストの綾なせる世界; 2010』にはいくつか論考がのっていたが北斎についての記述は見かけていない。

それでここでできた6枚について詳しく見てみた。
1)富士山が描かれているのは3枚で、その大きさの順は石版画とされる永代橋隅田川の南方)、日本橋隅田川から西へ)、両国橋(隅田川の北方)となっている。
2)江戸の最南端は品川の東面図で満月がすこし昇っている。
3)日本橋隅田川から西へ)、両国橋(隅田川の北方)の両図は、橋と艀を合わせた図柄で北斎の好んだ画題。「冨獄36景;御厩川岸より両国橋夕陽見」として名高いのですぐにわかるもの。
4)「橋場の渡し」と「永代橋」の図には帆掛け舟の図柄でくくることができ、前者は帆を上げている数隻が見られるが、後者ではすべて帆を下ろしている。
5)最後が「雪景色」で、木立の中の高殿とその横の川べりの大通りにそった家並みが描かれている。

この6枚図を六景図としてよむためには3組の対絵としてとらえる必要があるのだが、上の図柄分析をもとに以下のようにまとめた。
・「永代橋・橋場の渡し」
鍵は帆掛け舟で、「永代橋」では帆が閉じているので「天地の地」を表象する。富士山が高いのは南山に上ったので高く見えると考える。「橋場の渡し」は帆掛け舟が運航しているので「天の帆掛け舟」を表象すると考える事ができるから「天地の天」にあてる。
・「品川の東面図・日本橋の富士見図」
日本橋図には弁柄を多用した家並みと艀をおき、南山に近いことを表象しているから未申(ひつじさる)。当然、対絵には品川の東面図がふさわしく方角としては巽(たつみ)となる。
・「両国橋の富士見図・雪景色」
一番北にある両国橋は(いぬゐ)で、雪景色は艮(うしとら)となる。そうであれば「雪景色」の図柄に出てくる川べりは隅田川の左岸、あるいは西岸ということになる。

他にいろいろの解釈が可能ですが、ここでは「石版画の永代橋」という謎を軸に考察した。


 補足情報;
■オランダのライデン国立民族学博物館
■マティ・フォラー氏が長崎市発行の学術誌に寄せた論文