判断・断定(1);語末〈のです・んです〉
「ミネルヴァ書房」から出ている、初学者向けの言語学の本をみていたら、「準体助詞の」という見慣れない用語が出てきた。例文を見ると竹取物語の中の「ほどなくまかりぬべきなめりと思うが悲しく侍るなり」を「間もなくかえらなければならないと思っている【の】が悲しいのです」という勝手な現代語訳をつけて、【の】を【準体助詞】と命名したらしい。だが、例文は三つの述語について同一主語であるから、以下の方が自然な現代語訳ではないだろうか。
●逆接訳;まもなく帰らなくてはと思うのです。【が】、それ【が】とても悲しいのです。
●順接訳;まもなく帰らなくてはと思うのです。それ【で】とても悲しいのです。
つまり原文の【が】は主格としてではなく、逆接と解釈すべきだ。後続の接続句「それが」を補うとすれば前文を受ける【が】が隠れていると考えることもできるが、第一に抽出すべきは【逆接】である。もしも単なる継起ならば原文は以下であるべきだ。
●継起;ほどなくまかりぬべきなめりと思【ひて】悲しく侍るなり
●原文;ほどなくまかりぬべきなめりと思う【が】悲しく侍るなり
現代日本語についての素養を身につける手っ取り早い方法は直説法で外国人に日常会話の日本語を教えてみることである。筆者はこの時の経験から以下の両文を弁別する重要性を認識させられた。
A | 〈私は)頭が痛いです | 〈私は)学校を休みます | インフルエンザの子は学校を休ませます | このコーヒーはおいしいです |
B | 〈私は)頭が痛いんです | 〈私は)学校を休むんです | インフルエンザの子は学校を休ませるんです | このコーヒーはおいしいんです |
Aは単なる「命題」であって、構文とは言えない。
Bは因果や順接や逆接構文の一部分である。
そして近代の書記文体では【B】はCとして書かれる
C | 〈私は)頭が痛いのです | 〈私は)学校を休むのです | インフルエンザの子は学校を休ませるのです | このコーヒーはおいしいのです |
これらの文型は何らかの補文を必要とする。例示するならば以下。具体的な内容は文脈から決まっていく。
・頭が痛いので、ノルマが達成できない。 ・ノルマが達成できないのは、頭が痛いからです、。
・学校を休むのは、熱があるからです。 ・今日はテストだけど、学校を休むことにします。
・インフルエンザの子は学校を休ませること!(宣旨) ・インフルエンザの子は学校を休ませるコトになっています。
・このコーヒーはおいしいので、あなたに勧めます。 ・このコーヒーはおいしいのですが、高いのです。
最後の例文はいわゆる「役割語」派好みの文末を用いると、さらに両様の派生形をもつ。ともに実際の経験をもとに行われた「品定め構文」であるが、前者は上位者による「おしつけ断定」で、後者は下位者による「遠慮した断定」。
・このコーヒはおいしいんじゃ ・このコーヒはおいしいじゃん
参照文;「逆語序対 <じゃん・んじゃ> 」 http://d.hatena.ne.jp/midoka1/20101119
用語;命題文(単文)⇔構文(複文)
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