『野生の哲学―野口晴哉の生命宇宙』

健康のことだけならヨガでも気功でも効果はある。野口晴哉氏の屹立しているところは、イリイチの主張を自らの施術技術の裏づけをもとにカタチとして提示したことにある。

 大衆医療が薬漬けに、大衆教育がブロイラー育成に、そしてマスメディアが愚民化へと堕落せざるをえないメカニズムにいち早く気づいていた。そう考えた野口先生は、自分の著作物をマスメディアに委ねようとはしなかったので、人々の目に触れることは少ない。一つぐらい紹介書があってもいい頃だ。それが本書だ。  

 では何故マスメディアでは野口先生の考えが伝わらないのでしょうか。それは思想は人から人へとしか伝わらないからです。「個人」と「集団」の「健やかさ」を一体のものとしてつきつめた人なのだと思う。そして、「健やかさ」を支えるのは「野蛮さ」なのだ、というのが先生の結論なのだ。「野生」でもまだお上品過ぎる。

 なぜなら、「野生」は動物にもあてはめることができるのである。たとえば「野性のエルザ」のように。「野蛮」という言葉こそが人間が未だ、明瞭な音声を獲得する以前の、しかしヒト特有の精神を形成しつつあった時期を想起させてくれるのだ。それはとりもなおさず、ヒトが「野蛮」と「野蛮でないもの」、すなわち「カテゴリー」なるものを死活をかけて追求し始めた時期に私の思いを連れていってくれる。