あける・ひらく・ヒラ・pira

・「戸をあける」

・「扉をひらく」

  日本語ボランティアの勉強を始めて、最初の頃に気になったのは上の二つの違いである。その時は「戸は引き戸」「扉は西洋風の両ひらき戸」というイメージしか思い浮かばなかった。

だが「日本語とアイヌ語;増補版」を読んでいて気づいた事があった。沖縄では「崖」の事をpiraといい、それがhiraになり、漢字の姓「平良taira」に受け継がれているという。市の名前は「平良hirara」。大きな滝の下もpiraよ呼ばれるという。

現在の私達は「物の名前」を覚える事が勉強であり、教養だと思い込んでいるので「現象の名前」という観念が弱い。だが、piraとは「突然明るくなる、あるいは光があふれる」現象なのだ。近世の日本語で言えば「モノの名」と「コトの名」のうち「コトの名」こそが日本語の祖語を求めるときに重要なのだ。

そこがわかれば「扉」は「戸」よりも瞬間的に開ける事ができることが納得できる。そして「崖」と「滝つぼ」が同じ記号であることも、藪扱(こ)ぎをして大きな滝つぼに出た経験があれば、納得がいく。

後世、藪を「きりヒラいて」、平らな土地にした場所を「pira」と呼んだことも得心される。そこは労働の対価としての「進み行くと、突然光があふれる場所」なのだ。

最後に「扉」とは「西洋風の両ひらき戸」といよりは、寺院の建物の「両ひらき戸」なのだ考えた。そう。やっと、「観音扉」という言葉を思い出したのだ。


■補足(2006/08/06)
黄泉比良坂」の意味には二説ある。
①ゆるやかな坂ー平坂 
②急な坂ーヒラは崖。
p60, ASIN: 4087203522