DVD 『綴り字のシーズン』

   アメリカでは全国規模での子ども達の spelling contest があるらしいが、それを横糸に言葉と文字と神秘主義についてのさわりの映像がつづられている。神秘主義カトリックや仏教ではなく、ユダヤ教の方で、なにやらヘブライ語と関係がありそうな〈シエファ〉くカバラ〉〈ティクン・オラム〉〈賢者アブラハム・アブラフィア〉とともに綴り字解脱法(?)がでてくる。例えば、〈earth〉を〈heart〉とか〈threa〉とかに変えながら呪文のように発音を続けていくようなことだ。
  さらに〈apple〉をヴァイキングは〈エプリ〉と発音していたものが、〈アプフェル〉〈アッペル〉を経て、英語では〈アップル〉になったんだとかいう会話がでてくる。
  原題の〈Bee Season〉は spelling contest の優勝者を〈bee〉と呼ぶことと、ぶつぶつ唱えるような呪文のonomatopoeiaが〈bee〉であることから来ているようである。だが、蜜蜂シーズンは春本番でもあるから家族の挫折と再生のメタファでもあるのだろう。きわめつけは、冒頭の映像の主題が〈大文字A〉であることだ。

  これでは、〈あいまい母音〉〈あいまい子音〉の研究者としては、音幻遊びをしたくなってしまう。そもそも〈A〉はもともと〈アレフ〉といって決して現在のような母音ではなく、赤ん坊が言葉を発する前に喉をならす時の〈クッ、クッ、〉に近い咽頭破裂音といわれている。とすれば〈唇破裂音B〉こそが人の音声の原初だという考え方も出来るのである。だから日本には〈アホウドリ〉はいるけど、〈バカドリ〉はいないんだよ、とかのもっともらしい薀蓄を披露できるのである。
   さらに言えば、〈阿吽〉と〈いろは歌〉は別々に考えてはいけないと思ってきているのだが、そうであれば本来は〈阿・い・ろ・は・・・・せ・す・ウーム〉となる。そう変形してしまえば、〈ある・阿・A〉〈いる・be動詞〉も対応することになる。ついでに母音の最後は〈ウ・U〉の対応まで視野に入れて英語と日本語を対比する方法も頭のすみにに入れておきたい。


■origami(12月26日補記)
 忘れていたが、日本の折り紙、とくに鶴が重要なメタファとして登場する。仏教やカトリックよりも少女と直接交流するという意味では重要な登場人物(?)である。綴り字との関わりでいうと〈i・y〉が問題となる。語末母音という開音節が英語話者にはとてつもなく奇異のようである。