音幻;魚の名

   新江ノ島水族館に出かけてきた。新装なったときは、ものすごい人出だったので、ちょっと近寄る気がしなかったのだが、この寒空に出かける物好きは少ないだろうと期待していった。ほどほどの人で楽しめた。
   ここの売り物はクジラとイルカのショーだ。ところが早速〈ゴンドウクジラ〉がどうしても〈バンドウクジラ〉に聞こえてしまう。困ったものだ。
   ところが帰りの電車でふと京都では〈the おさかな〉の〈鯛〉を〈ぐじ〉と呼んでいることを思い出した。〈ぐじ・くじら〉は偶然だろうか?
   さらに家にかえると、折込チラシの中に土佐料理の広告があって、名物〈くえ鍋〉と出ているではないか。写真をみるとこちらでいう〈あんこう鍋〉に似ている。〈くえ・ぐじ・くじら〉は偶然だろうか? それとも〈卑語・尊称・誇大語〉の対応を考えても良いのだろうか?
    というわけで土佐出身の家人に〈くえ〉について尋ねると、少し前に娘が買ってきた「美味しんぼ横綱の好物」を手渡してくれた。
    要するに博多で〈あら〉と呼ばれる魚が高知では〈くえ〉と呼ばれているということだ。それは京都中心史観の牙城、大学アカデミズムでは〈はた〉と呼ばれている。そういえば京都の名物料理には〈はも〉もある。〈川うなぎ〉の堅い物に過ぎないのが何故高級料理なのか?
   答えは漫画にのっていた。
   博多で〈あら〉をさばく時に、〈ばかデカい出刃〉ではなく、〈ちいサイ出刃〉でサイていくのだ。現在の京都の職人がどんな包丁で〈はも〉を料理するのかを私はしらない。だが間違いなく、〈はも料理〉のメタファは〈刃の跡目〉だ。力任せの料理ではなく切れ味の良い刃の仕事、つまり〈刃物;はも〉ということだ。