『ことばは生きている−選択体系機能言語学序説』

  著者の一人、角岡賢一氏は『オノマトペア』の中で非常に鋭い分析を行っていたので、その後の仕事を見たいと思ったのだが、この本の情報しか手に入らなかった。日本語で書かれてはいるが、例文は英語だし、偉大なるHALLlIDAY先生の保障書付の書物である。だが先日の〈subject-object〉に関連する最新のtermが出ていたので備忘録を書き始めた(文末参照)。


    単に英語の勉強のつもりで備忘録を作りはじめたのだが、第5章の備忘録作り終えた今、すごい不快感に襲われている。著者たちは日本で暮らし、日本語で仕事をしているのだから日本語教育学と国語学の<主語>をめぐる軋轢に無知であるはずはない。ましてや本書は三上のスポンサーであった「くろしお出版社」から上梓されているのである。私の結論を言えば本書はHalliday先生の名前を利用した主語抹殺運動への翼賛にすぎない。著者らにその意図がなかったのであれば、不注意だったということである。
   この著者らはHALLIDAY先生だけでは足りずにプラーグ学派で飾り立ててという語を持ち出しこれを<主題ー題述>と翻訳している。だが広辞苑を見れば冒頭に来る主題については<首題>という語彙があるのである。さらには普通の英和辞典にはのっていない特殊な用語である。
    は、われわれが学校英語で習ったと概念的にはほとんど重なる概念に過ぎない。確かに英語のは、あまりに多義的で学術用語にはなじまないから英語話者であるHALLIDAY先生がヨーロッパの言語から適当なものを持ってきて使うことは当然ありえる。だが、そうであればその学術用語の日本語への翻訳は日本語の語彙体系、とりわけ長い論争の歴史を隠蔽するような方向での訳出ということはありえない。
    日本語の中だけで言えば、幕末から明治にかけてを〈主語ー述語〉と訳したからといって、それで日本語を分析するのには不都合は生じていない。それでも不都合があるのならば〈主部ー述部〉を使えばいいだけのことである。
     本書の第5章については日を改めて、日本語の成り立ちから検討をくわえてみたい。


>参考までに、学校英語で習う文法用語 (http://d.hatena.ne.jp/midoka1/20070321

subject-object 主語ー目的語
sbuject-verb 主語ー動詞
nominative case-objective case 主格ー目的格
subject-predicate 主部ー述部
main clause-subject clause 主節ー従属節

第1章;ことばについて考える

Systemic Functional Linguistics  選択体系機能言語学   (SFL)
sentence-a sentence 文章ー単文   書記体系ではperiodが単位。音声体系では音調域(tone group)、具体的にはpauseが単位
text-clause テキストー節   節の下位単位は主語(Subject)と定性(Finite)
text-realization テキストー具現化   具現化とはある意味内容を書記的、音声的そして文法的な単位で具現すること。one level of abstraction beyond the clause

参考

Mood←Subject+Finite
Clause←Mood+Residue


  要するに学校で習った主節と従属節を単位とするsentenceをtextと言い換えたと理解することができる。構造的にはほとんど違いがわからないし、p4のテキストの定義からは学校英語で習った、従来のsentenceの理解とどこが違うのかわからない。
   ・・・・・・一般に意味を伝えるのは節ですが、テキストはその節のひとつ上に意味を構成するものとして考えられています。この両者の関係は節と形態素形態素と音節、音節と音素のような「全体とその構成要素」という関係ではないのです。一つの節でもそれで完結した意味をもつならばテキストでありえるし、複数の節が連続していても全体としてまとまっていればテキストでありえます。・・・・・

第3章;ことばを理解する−単語と節の関係
p57 図3 過程構成選択体系網

    節clause                
    過程形成↓                
状況要素         過程型       
状況要素なし   状況要素あり   存在   関係 発言 心理 行動 物質
        同定的 属性的        

p42;いろいろな過程型

a 物質過程 (Material) doing   身体的、物理的、物質的
b 行動過程 (Behavioural) behaving   生理的、心理的
c 心理過程 (Mental) sensing   感情的、知覚的、認識的
d 発言過程 (Verbal) saying   言語的、信号的
e 関係過程 (Relational) being   対等的、属性表示的
f 存在過程 (Existential) existing   存在的(there exists)

p43;図2英語の過程型

BEING-world of abstract relations
DOING-physical world
SENSING-world of consciousness

参考
Subject/Noun→Behaver,Carrier,Actor,Senser,Sayer,Identified,Value,Token,There,Medium,Agent
第4章;ことばを交わす−話し手と聞き手の語彙文法
p68 表5 開始と応答で具現される発話機能

開始   期待される応答   期待にそわない応答
陳述statement   承認acknowledgment   否認contradiction
質問question   答えanswer   忌避disclaimer
提供offer   受容acceptance   拒絶rejection
命令command   遂行undertaking   拒否refusal

p76 図6 モダリティーのタイプの選択体系

    TYPES OF MODALITY    
  modulation       modalization  
obligation   inclination   usality   probability

参考;probability

high; must,should
median; will,would
low; may,might,can,could

第5章;ことばを伝える−テーマの展開
  p87 5.3より引用。 ・・・・・・本節では節の出だしの要素、すなわち節頭の要素が、話してのもっとも伝えたい意味・内容であるという点について見ていく。・・・・Halliday(1994)は、・・・これをプラーグ言語派の用語を借りて<主題(テーマ・Theme>と呼んだのです。主題に続く部分、すなわちメッセージの残りの部分は、その主題を展開するもので、同じくプラーグ言語学派の用語を借りて<題述(レーマ・Rheme)>と呼ばれています。