質量の概念

    先日、新聞を見ていたら〈質量〉という言葉が出てきたのだが、それが丁寧に「質量(重さ)」と記述されて、とてもうれしかった。それで、思い出したのが『ウィキペディアWikipedia)』の「質量の概念」の項の記述を訂正した方がいいと思ったことがあったこと。
    訂正は簡単なことで、〈重さ→重たさ〉とすることなのである。
    度量衡の和語は〈長さ・大きさ〉〈多さ〉〈重さ〉であることまではいいのだが、〈重さ〉だけが〈重たさ〉という対語を持つ。そして、ニュートン力学の本当のスゴイ所は、この人間の原初の【皮膚感】【触覚】あるいはベルグソンが言うところの【筋肉努力感】を理論の基盤においていることなのである。だから日本語でニュートン力学を運用するためには〈重たさ・重さ〉の対語が必要なのである。だが学校国語は〈でかい〉〈こいつ〉と同様に〈重たさ〉も排除した語彙体系の上にたつので、実学を教えるのに不向きなのである。
    念のため言っておくが『ウィキペディアWikipedia)』の記述は少なくとも東京書籍の中学校教科書『新しい科学 1分野上』のp23に出ている「図4、物体の重さと重力」の図を補完する記述である。だがこの図では人間の感じる「重たさ」を意味する用語に「重さ」が使われている。これでは子供たちの頭は錯乱状態になるはずだ。つまり「理科教育嫌い」になるはずだということだ。
■訂正文
     ①月面では【人間が感じる物体の重たさ】が地球上の約1/6になる。しかし物体そのものが変化するわけではないので、その質量は変わらない。これらの違いは何であろうか。【重たさ】とは実はその物体にかかる重力のことであって、月面では重力が地球上の約1/6になるということである。
     ②一方、質量はその物体を特徴付ける量であって、同じ物体である限りは変わらない。重力は万有引力とも言うが、二つの物体間に働く引力であり、その二つの間の距離とそれぞれの物体の性質とに応じて働く力である。この重力を決定する性質を「質量」と呼ぶ。ある物体を月面に置いたとき、その物体と月との間に働く重力は、その物体の質量と月の質量、および月の中心からその物体の中心までの距離によって決まる。これをその同じ物体を地球上に置いた場合と比べると、物体の質量は同じだが、地球の質量と月の質量の違い、地球の半径(地球の中心と物体の間の距離)と月の半径の違いが合わさって、結果的に月面に置いた場合の重力は地球上に置いた場合の重力の1/6になる。
     ③すなわち、「質量」とは重力を生み出す元であり、生み出された重力【を人間が感じたのが重たさ】であると言える。
■追加文
     ④しかし科学の世界では人間の感じ方をもとには体系を作ることができないので、【重たさ】に順ずる尺度として【重さ】をもちいる。【重さ】はkg系であればkg原器の何倍かという【数量】を秤でもとめてあらわす。当然、月面で【重さ】を計測する場合はkg原器にかかる重力も物体にかかる重力も同じように変化するから、得られる【数量】は月面でも地球上でも理論上は、一定不変である。だからkg原器に対する数量として求められる【重さ】は質量と同等と考えることができる。もちろん地球上であれば事実上、【重たさ】と【重さ」は同等と考えてよい。
     ⑤さらにいうと、江戸時代までは人間が感じる【重たさ】と区別するために【重さ】に相当する【数量】は【目方】と呼ばれていた。なぜなら【重たさ】や【重さ】は【触覚】で確認するが、秤をつかって求められる【数量】は目盛りによって目で確認するからである。つまり【視覚】による。だがいくら百聞は一見にしかずとは言っても、もちろん、秤の調整ができてなければ【目方】は【重さ】を反映しない。だからこそ、公正な取引は正しく調整された秤が前提である。そのごまかしの歴史は、交易の歴史と共に古い。



■原文ー引用
     ①月面では物体の重さが地球上の約1/6になる。しかし物体そのものが変化するわけではないので、その質量は変わらない。これらの違いは何であろうか。重さとは実はその物体にかかる重力のことであって、月面では重力が地球上の約1/6になるということである。
      ②一方、質量はその物体を特徴付ける量であって、同じ物体である限りは変わらない。重力は万有引力とも言うが、二つの物体間に働く引力であり、その二つの間の距離とそれぞれの物体の性質とに応じて働く力である。この重力を決定する性質を「質量」と呼ぶ。ある物体を月面に置いたとき、その物体と月との間に働く重力は、その物体の質量と月の質量、および月の中心からその物体の中心までの距離によって決まる。これをその同じ物体を地球上に置いた場合と比べると、物体の質量は同じだが、地球の質量と月の質量の違い、地球の半径(地球の中心と物体の間の距離)と月の半径の違いが合わさって、結果的に月面に置いた場合の重力は地球上に置いた場合の重力の1/6になる。
      ③すなわち、「質量」とは重力を生み出す元であり、生み出された重力が重さであると言える。