〈it〉は〈それ〉か

   月初に送られてくるメルマガで「酒井邦秀」の名前を知り、早速借り出したのが『どうして英語がつかえない?』。その「第6章:学校英語という名の人工言語」はすごい。題名だけでも拍手喝さいだが、「6.4節;the big picture 人工言語の根」がまたすごい。これは英語教育における〈日本文化の型〉を取り上げている。文化相対主義の優れた適用例である。
     さて、ここで取り上げるのは上記の表題である。実は私は国語も英語も習った「文法知識」はそっくり抜け落ちている人間である。学校時代の成績は悪いほうではなかったから、期末テストではきっちり理解していたのだろうが、きれいさっぱり、すっぽりと抜け落ちて、さっぱり身についていない。それでここで抽出されていた以下の対比図式に恥ずかしながらびっくり仰天したのである。

this   これ
it   それ
that   あれ

    私は、なんとなく〈it〉は〈構文専用〉と思っていたようである。だから真っ先に思い浮かぶ例文は私の場合は以下である。そしてこれは逆語序対をもたないが、〈it→the one〉へと代入変形したものは逆語序対をもつ。
(1) It is Mary who baked the cake.
(メアリーがケーキ、焼いたのよ。/ケーキを焼いたの、メアリーよ。)
(2) Mary is the one who baked the cake.
(3) The one who baked the cake is Mary.
あるいは双数や両数らしき語を使って
(4) Tom, Jerry and others killed John.
(5) I've decided that it is you two that is guilty for killing John.
(6) I am telling you that both of you are guilty.
     つまり、私は直示詞と代名詞は別物だと思っていた。だから卑語代名詞を訳せば以下のようになるはずだと思っていたし、今も思っている。

こいつ   this one   ここいら   over here
そいつ   that one over here   そこいら   some where around here
あいつ   that one over there   あそこ   over there
ここ   自分の手のヒラがアタっている間   ここいら   自分の手のヒラがアタりえる間
そこ   相手の手のヒラがアタっている間   そこいら   相手の手のヒラがアタりえる間
ここ   今ここ   かこ  

    そこで気になり始めたのが以前引用したフンボルトラテン語。もしかして訳を以下のようにつけるのが人工日本語の決まり事だったのかしらん。

hic   this  
iste   it  
ille   that  

最後に、前回の繰り返しであるが

     この文献を、1月の「認知言語学による大和言葉祖語へのアプローチ」を書く前に見ていればと残念至極である。私がこの文献を知っていれば、1月の時点でもっと強く〈そこ=底〉〈ここ=長のいる場所〉という主張を展開できたのである。http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/gengo06.htm