逆語序対〈中止・止中〉

     広辞苑を見ていたら〈止し〉の項目に<動詞の連用形にそえて、中止の状態を表す語」とあって例として「飲み−」「読み−」「言い−」と出ていた。だが、「中止の状態」とは現代日本ではニュアンスを取りにくい。例文を挙げると・・・・。
(1)運動会を中止した。(100%再開しない)
(2)運動会を中止している。(聞きなれない)
(3)運動会を中断した。(再開の可能性は低い)
(4)運動会を中断している。(再開するつもり)
(5)運動会を延期した。(開催するつもり)
(6)運動会を延期している。(聞きなれない)
    確かに「中止の状態」なのだから(2)の文例を想定して辞書を記述したのだと考えることができる。だが、現代日本語では「中断」という語があるのだから、そちらのほうがふさわしいと思う。さらに文語ならば以前に取り上げたが、「メガネをかけた人」のように〈た形〉が使われていた可能性の方が高いので、やはり「中止=再開の可能性は低い」のである。
     ところが辞書にはないが逆語序対が語法として健在であれば「止中」が存在していたと考えることができる。そうすればかな混じり文は以下になって容易に「再開の可能性あり」のニュアンスを出せるのである。
(7)運動会を途中で止した。(100%再開しない)
(8)運動会を止している中途だ。(再開するつもり)
     どうして、こういうことが気なるかというと、以前〈suspend〉〈suspension〉の語感がなかなか掴めなくて、何度も辞書を引いていた。最後に「宙吊り」という語を得て、やっと辞書引きから開放されたのである。多分、広辞苑のような「中止」の使い方と、「中断」「宙吊り」の関係が日本語で自覚できていなかったんだと思う。だとしたら私よりも若い人たちの多くも苦労しているはずである。一考を要すると思うが・・・・。


逆語序対〈中途・途中〉
    昨日、上記の対語を使ってしまったので、まだ頭からこの問題が抜けていないらしく、朝一番に接尾辞〈止し・かけ〉が気になって辞書をみた。

■接尾辞〈かけ・がけ〉
   広辞苑では「かけ・掛/懸」と「がけ・掛」の二つがあげられ、前者は「動詞の連用形に添えて、動作の中途である意を表す」、後者は「動詞の連用形に添えて、ついで、途中の意を表す」と、ある。例示を含めて図式にすると以下。

「かけ・掛/懸」 「動作の中途である意を表す」 「読みかけ」 「やりかけ」
「がけ・掛」 「ついで、途中の意を表す」 「帰りがけ」 「もどりがけに都に参って」

     だが、両方とも「ある動作を始めてしまっている」というのが原義で、それで十分ではないだろうか。
     さらに、気になってきたのは「さし・止」と漢字が一つしか例示されていないことだ。確かに「物指し・物差し」で、「物刺し」という漢字は使わない。それは日常生活に物騒な「刃物」を連想させる字を使いたくないからだと思う。だが「刺し」は〈貴卑同源〉ルールがあてはまる。証拠は「刺身」「刺し刃包丁」である。当然「何かを中断する」となれば「刃物」が必要であろう。だったら二字漢字語「中止」からの「止める」ではなく「刺す」をきちんと説明に入れるべきではないだろうか。


■まとめると、

「さし・刺/止」 「ある動作の中途である」 「読みさしの本」「飲みさしの杯」 [参考] 「名ざして」
「かけ・掛」 「ある動作を始めてしまっている」 「読みかけの本」「帰りがけに」 [参考] 「読みかけて」「帰りかけて」

■逆語対〈でかける・かえる〉〈いでる・はいる〉〈いゆく・いくる〉