エンセーテとモグラと猫と

   たまたま町でみかけたのだけど、テレビでエチオピアのある部族が特殊なサトウキビを栽培しているということだった。10年に1度しか結実しないし、芋みたいに根からも増やすことができない植物でテレビではこれを「エンセーテ」と呼んでいた。百科事典には出ていないのでつづりは分からない。どうやって増やすかというと根の少し上に生長点があって、これを取り除いてから二分した株を植えていくとちゃんと根が出ると言っていた。それも数千年の伝統らしい。この作業は男だけが出来るらしい。
    この人たちは鉄の農工具は使っているようだった。豊作を祈る儀式と責任者である呪い師も紹介されていた。 
    さらに興味深かったのは、直前に映し出されたモグラ退治の様子だった。トウモロコシの種をまく準備をしていてモグラの穴を見つけた場合は徹底的に掘り返して、モグラを捕まえることになっているらしい。エンセーテの敵のようだ。その後が面白かったのは後足を縛ったモグラを猫に与えていたことだ。
     つまり現在の我々は猫というとネズミと対にして考えるのだが、ネズミは農耕に直接害をするわけではない。だから農村ではネズミに対する親近感を表す民話もある。だから、〈猫とネズミ〉という対概念には、あまり古さが感じられないできた。だが元来が〈猫とモグラ〉だっとすれば、その由来の農耕との結びつきは理解しやすい。
    それとヨーロッパの民話にはよくアナグマが出てくるが、モグラの天敵であると同時に、モグラ同様、深く長いトンネルを掘って暮らしている。近世の日本は水田が中心になっているので、地中のアナで暮らす動物に対して、リアリティが薄いが農耕が畑から始まったとすれば地下の主である、アナグマモグラが民話の深層に残っているのは当然ということになる。