ウォッチ・バレー

   NHK世界遺産シリーズの中の一つの番組なのだけど、Witch Valley のことだと思って見始めてすぐに、有名なスイスの時計工場のつらなる町並 Watch Valleyのことだとわかった。
   その町の中心に一つの時計があって、面白い形をしていた。長針にあたる針の両端が太陽と月でできていてどうやら太陽が正時を告げているようなのだ。そして分針に相当するのは矢になっている。時計の中心は八つのとんがりのある恒星マークがはまっていた。
   正午の正時の4分前に道化が出てきて偽の正午を告げるのだという。そして正の正午に王様が賑々しく出てきて正しい時を告げると言っていた。その解説がふるっていて、道化は教皇を暗示し、王様は近代を象徴しているのだと言う。
    だが、「七曜 十二ケ月の成り立ち  http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/nanayou.pdf」を読んだ方々はわかっていると思うが、「4分」の含意は「恒星日周」と「太陽日周」の差を示しているのであって教皇とはなんの関係もないはずである。そしてこの差が1年になると略364日と365日の差になるのである。
    ここで展開された解説が日本のNHKの偏見によるのか、スイスの時計文化においても既に恒星日周という概念が完全に忘れ去られてしまった結果によるのか、興味深い。


  なお、前掲の論考を書くためにいくつかの成書を当たった時には「一恒星日」と「一太陽日」について明確に述べた書は見つからず、すべて「歳差」という惑星中心史観の用語しか出てこなかった。恒星日周も専門の天文書ではみつからず百科事典で見つけたのだった。
  だが、『こよみと天文;渡辺敏夫;1973』には日・月・年の三つについて恒星と太陽についてきちんと対比した数値が載っていた。それによると「朔望月」「恒星月」という概念も確立していて以下のようになっていた。
朔望月;29.530588日
・恒星月;27.321661日