逆語序対

    NHKで横浜言葉として知られてきた「〜じゃん」について薀蓄を披露している人がいた。ずいぶんとお金と時間をかけて調査をしてきたらしい。だが現在社会言語学といわれる、このような研究には公的資金を投入するほどの価値があるのだろうか。明治時代にフォッサマグナの上の民族的、民俗上の差異を研究することには人類学、文化人類学上の大事であったし、柳田らの「周圏理論」を構築確認するうえでも地方方言の研究は重要だった。
    だが識字率100%を達成して久しい国、テレビメディアが必要以上に人々の生活を侵食している日本で単なる踏襲的な調査をする意義はあるのだろうか。
    現在必要なのは縄文時代からすでに度量衡の統一が図られる一方、支配層においては長い年月を経てきた識字社会であることを前提において、むしろ共通方言、あるいは広範な地口文化の存在を仮構し、それを実証していくことだと考える。
    つまり、以前にも指摘したが <おおジョッキ・だいジョッキ> の関西・関東における使用頻度の分布をお金をかけて調査する必要があるのかということだ。もちろん調査自体は結構であっても、そのデータをきちんと解析する能力のある人と、そういう人を雑用なしに研究に専念させる環境がないのであれば、そういう調査は中止すべきだということだ。
     もっというと、「〜じゃん」についてその音声の分布や文献を調査するだけでなく、、大阪大学の方で推進している役割語「〜じゃ」の研究とクロスオーバーするような活動が求められるということだ。もっとも、これには調査費がかからないので、長年下請けをしてきた関連会社からは嫌われるだろう。オトコ社会では嫌われると出世にさわる。だから漫然と調査費を使い続ける男が多い。
   だが、出世をあきらめて、調査費も出張旅費もがなくても、折口信夫の「逆語序」という方法があれば、結構面白いことができる。たとえば、以下。

   ・いいじゃん。(あいまい)
   ・いいんじゃ。(断定)


   ・コレ、おいしいじゃん。(あいまい)
   ・コレハ、おいしいんじゃ。(推奨)


   ・おまえ、昨日、言ったじゃん。(あいまい)
   ・おまえハ、昨日、言ったんじゃ。(断定)


   ・オラ、昨日、言ったじゃん。(あいまい)
   ・オラ、昨日、言ったんじゃ。(主張)


   ・おまえ、今日、行けるじゃん。(あいまい)
   ・おまえ、今日ハ、行けるんじゃ。(主張)


   ・おまえ、昨日、行けたじゃん。(あいまい)
   ・おまえハ、昨日、行けたんじゃ。(反実難詰)



   ・コレ、おいしい。(独語)
   ・コレ、おいしーい。(推奨)








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