不良;さがなし・ふさわず・よくない

    少し前に本居宣長の「嶋生みの条」のキーワード「不良・ふさわず」についての考察をアップしてから、気になって新井白石について調べ始めた。昨日図書館からの連絡で大磯図書館にある『新井白石全集3;明治39年発行;吉川半七発行』を借り出すことができた。
  さっそく 『古史通巻之一』に目をとおすと、白石は「不良・さがなし」と読んでいた。
  『全訳古語辞典』には3項あり、「性質がよくない・意地悪」「口が悪い・口やかましい」「いたずらで手におえない」が載っているが、ここには当てはまらない。仕方ないので漢字「性」から直接義を採ってくるならば「性がない⇔生がない⇔生きられない」となって、もっとも適合する。
    とにかく戦後の国語学会・日本史学会の大方が採用している「不良・よくない」が、最も男性尊崇・女性蔑視の義が全面に出ているのである。これは興味深い事実である。緊張感が薄れると語の両義性に鈍感になるのであろう。けっして国語学会や日本史学会の人たちが、江戸期の儒学の教養を身につけた男性知識人よりも反動的な女性差別主義者であるわけではないと思うが・・・・・。

参考;「「女男(めを)の理」と「民衆の理論」と」 http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/mewo.pdf


012.10.18追記

さがなし・なさけない

   さて、「さがなし」も、現代日本語としては使いにくい。似たような語を探していったら「なさけない」が浮かんできた。これだと古語辞典の三つの義をカバーしつつ、さらに多様な使い方が素直に浮かんでくる。古事記の条にも当てはめられる。
1,性質がよくない・意地悪
     いじめっ子に睨まれても押し返せない自分が情けない
2,口が悪い・口やかまし
    あの意地悪婆は減らず口ばかりで、自分の母親ながら情けない
3,いたずらで手におえない
     うちの子はクラスでも暴れてばかりで、親として情けないかぎりだ。
4,流産を繰り返しているので情けない

性・情

  そうすると次に漢字の方も形が似ていることが気になってくる。基本は「三」を縦棒でつないだ物で、片方は「月」の上に載せているが、片方は「ノ」字で異同を表現している。何か関係があるのだろうか。
   いずれにせよ、ともに「心」に関することなのだからそれが「ない」ということは悪いと言うことになる。それを表現する方法をさがすと「木石のような」という慣用句が浮かんでくる。だとすれば日本古来の文化は木石にも神を見いだすアニミズムだという押しつけ教育もいささか妖しくなってくる。「木石」と「有情」を弁別して後者を評価してきた文化と考えることができる。

良くない・欲ない

    そうすると次には、現在頻用されている「良くない」から「欲がない」を引っ張り出してくることができる。例えば「我慢」は現在はいい意味で通っているがかつては「慢心」の義が勝っていたのと逆に、現在は「欲がない」のはいいことの義になっているが、かつては「欲がないこと」すなわち「生きる意欲がない」。つまり「良くない」事であった可能性も視野に入っている。








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本居宣長