『心のなかの身体』

 この本がきっかけで認知言語学に好意をもったことは確かなのだけど、今読み返してみると、どこがよかったのか思い出せない。確かに「客観主義」に対しての「相対主義」ではなく「想像力」の提示が新鮮だったことは確かだ。そして冒頭p26の二つのまとめに幻惑された。

  • イメージ図式とは身体の運動、対象の操作、そして知覚的相互作用に伴う繰り返し現れる型である。
  • それは、それぞれの部分が関係試合、統合的な全体に組織されたゲシュタルト構造をもつ。

 だが、この二つを理解するのには、ずいぶん苦労した。まず「ゲシュタルト」が辞書をひいてもわからない。ドイツで学位を取った方に偶然お会いして「繰り返されるパターン」だということがわかった。ようやく二つの文が一語にまとまった。「繰り返される身体経験」。これなら腑に落ちる。平面上のパターンならば分割できるが、重層性をもつパターンは分割できない。でもそうなると結局認知科学の「アフォーダンス理論」でもいける。日本ではこっちの方が人気だ。

 本書の特徴は「力ベクトル」の詳細な分析にある。
 だがその内容を日本語話者が理解するのは、本書では難しい。それはニュートン力学と運動力学の違いを理解できていないと用語が理解できないからだ。それはp59の「図1強制」の理解すらが難しいということである。この図に対する理解が違えば、その上に構築される認知言語学の仕事の質はかなり怪しくなる。
 加えて、本書ではカントの仕事を対照に新しい理論を構築する構成になっているから「カント」がわからないと最新の認知言語学はわからないことにもなる。それでは少し前のカントの批判者であるベルグソンと本書の主張はどこが違うのだろうか。それがわからなければ認知言語学はフランス思想史の一派から馬鹿にされ続けることになる。