〈一の位、十の位〉 と 〈三位一体〉

  夏休みに外国籍の7歳の子の算数をボランティアで教えたが、一学期に習った〈6+7=13〉のような繰上げ算ができない。それでつらつら調べていったら、この場合の〈くらい〉は英語だと〈PLACE)なのである。それで横に並んだ四角を三つ書いて、真ん中が〈十のplace〉よ、ってやったらタチマチわかってくれた。(もちろん、これ以外にも仕掛けは十分そろえたのだが)
  私の場合、日本語を教えるといっても、私の方が日本語を勉強しているのである。だから無償ボランティアでも仕方ないのだ。今回も〈くらい〉といわれると垂直イメージしか浮かばないが、それは位階であって、物理的実在である〈場所〉と対語をつくる〈位置〉がすぐに思い浮かばなければいけないことを勉強した。
  さて、今度は勉強したことをもとに研究する。こちらが本職。研究ボランティアである。一般的には研究には資金が要ることになっているが、日本語研究は事例を無償で集め、パソコン画面で解析するだけだから、ほんとお金が要らない。今回も日本語の音声を勉強すると早い時期にならう〈三位一体のサンミはSAN→sam〉によるという説明はおかしいのではないかという課題を見つけた。つまり、〈くらい=place 〉ならば くらい=み〉が成り立つのではないかと考えた。
  現在は〈接尾辞さ〉が全盛で、〈接尾辞み〉は古臭いと考えられているが、〈高みの見物〉〈深みにはまる〉など〈位置名詞〉を作ってきたことがわかる。一方〈接尾辞さ〉は沢山の語について、節操がないのであるが、意味的には〈場所名詞〉や〈位置名詞〉は作れない。とすれば〈接尾辞トコロ〉や〈接尾辞ば〉が登場する以前の日本語にあっては〈み=位置名詞接尾辞〉であったと考えることは突飛ではないはずだ。
  とすれば〈三位一体のサンミはSAN→sam〉という説明よりは、他でも見られる漢語の音訓二重読みによるという説明も合理性を持つはずだ。つまり実際には〈いちい一位いちみ〉〈さんい三位さんみ〉〈にい二位にみ〉のように右と左の読みが並存した可能性を考慮するということである。これにより〈いちい〉の上に存在する唯一の支配者に対する尊称の〈おおきみ=おおき・み〉の語分析が可能になる。

  なお〈place=位置>なら、場所の英語は何だろう、と考えていって、〈venue〉を思い出した。今まで単なる習慣としか理解していなかったが、そういうことだったんだ。今回は英語の勉強もしてしまいました。