逆語序

  古田武彦 high の続き。『日本語の形成』という本が出てきて、その中に「古代日本語の内的再構」という阪倉篤義の論文があって、その最後の「付け足し」の最後の方に折口のや坪井のいう「逆語序」という言葉が出てきた。それで『折口信夫全集 19巻』を借り出した。
   p390に「媛の名」「彦の名」を例として〈ひめ〉〈ひこ〉が語頭にきたり、語末にきたり、あるいは語中も含めて数度使われている例を取り上げならが、琉球語に見られる日本語と比べて逆接になる例と対比している。
  考察の方は通時言語学からのアプローチしかなく、どちらかが「古層」という分析である。他のところを見ても、この人の分析は、ところどころそうでない考察も見えるが、結論は通時分析が勝っている。

  たとえば「熟語構成法から観察した語源論」であるが、〈竪橋〉〈橋立〉では垂直と水平というキーワードは出てくるが、その二つを区別するための〈逆接〉という考えではなく、あくまで造語法の通時変化への注意喚起となっている。だが私なら以下のように分析する

竪琴 ;立てて使う琴
琴立て ;琴を立てるモノ・トコロ
竪橋 ;立てて使う橋;梯子
橋立 ;橋を立てたトコロ

  〈傍丘カタオカ片岡〉を〈山城〉に比して、古代には〈丘傍〉という熟語構成法が一般的だった可能性へと繋げている。だが地名でなく一般名詞と考えれば以下のように考えるのが古文を読めない日本語話者の素直な実感だとおもう。

山城 ;山にある城
城山 ;城のある山
片岡 ;堅めた岡
岡片 ;岡にある堅いところ

  もっと馴染やすい例が〈靴下〉・古代には〈したぐつ〉だったという。だが、ざっと考えても〈垂直下方・した・見えないところ〉という多義語であるなら〈くつした;靴の垂直下方〉で、〈したくつ;靴の中;靴より先にはくモノ〉という識別があった可能性もあるはずだ。現代語で言えば・・・・。

下書き 下敷き
垣下 敷き布団下

  
   だが、とにかく事例が豊富で現在の思い込みの日本語を脱構築するには良い本だ。いずれゆっくり読みたい。