朝青龍と村上龍とペコちゃんと

      相撲中継は見ない。週刊誌は買わない。
      だけどニュース番組はみる。電車の中の週刊誌の見出し広告は見てしまう。
      こう、いう私にはここ1週間あまりの騒動は不可解である。それでも『月刊言語』に掲載されたデカルト誹謗論文のように自分で疑問を整理するまでもない、と思っていた。ところが今朝知人から毎日送られてくるメルマガの中に村上龍の編集しているという『メルマガJMM]』からの引用があって朝青龍問題についてしっかりした取り上げ方をしているという推薦がついていた。それを読んでいたら、不愉快になってしまった。それは、その文章の書き手が、私が〈デラシネお坊ちゃま〉と名づけた奴で、実はコイツがJMMの常連になった時から、私は『メルマガJMM』の購読を中止したのだった。
      それでも何故、〈デラシネお坊ちゃま〉の書く日本語が癇に障るのか、きちんとまとめたことはなかった。今回の問題で言えば構造図の取り方が日本で生活していない人のやり方なのである。なんと〈朝青龍 vs 伊良部投手〉なのである。共通点は本当に実力があるのにメディアにバッシングされたかわいそうな奴。そこから「グローバル社会におけるコミニュケーション」という一般課題が出てくるわけである。アメリカで生計を立ていればそういう風にとらえることが日本での自分のプレゼンスを強化することになるのはよくわかる。そしてそれなりの日本語で日本人の名前で流通してくれば、なんとなくエラーイ日本人からのご託宣のように受け取ってしまう。その構造が数年前もイヤだったんだなと改めて思い出した。
       もちろん自分がある事件〈図〉をとらえるときには、結局は自分のそれまでの経験という〈地〉からは離れることはできない。その経験は生活環境が第一であるが、ちょっとした偶然も大きく作用する。私の場合はこれも別のメルマガでモンゴル人女性の日本相撲に関する記事を少し前に目にしていたのである。その時には意味がよくわからなかったのだが、その女性の構造図は〈朝青龍 vs 後進のモンゴル出身力士〉だった。彼女によれば朝青龍はモンゴル女性と結婚したが、後進の有望力士は優勝する前に日本女性と結婚した、というのである。つまり〈デラシネ力士〉ということになる。優勝してから、日本女性と結婚したのならばまだ許せるが、優勝する前に日本女性と結婚したということは、外国人としての困難を己の力だけで克服したことにならない、というのである。
       その女性に言わせるとモンゴル人はこれからモンゴル出身力士が横綱になっても心の底からは応援できないそうである。そしてこの考え方を一歩進めると相撲協会の今回の事件へのかかわり方の深層理解にも一つの手がかりを与える。
      モンゴル出身力士はほしいが、モンゴル魂の力士は要らない、ということなのであろう。
      そして、こう言いきって見ると、事件の発端が「地方巡業」であったことも必然なのかもしれない。地方巡業というからには順繰りに地方を回るわけだから、日本の人ならば、横綱になっても何回かに一回はめぐってくる自分の故郷への巡業と言うことになる。だがモンゴルの人である朝青龍にとっては「外国巡業」に過ぎない。もしも朝青龍が引退後には親方になってモンゴルからの後進を育てたいと考えていたのなら、「内国巡業」よりも「外地巡業」の方が意味があると考えるのはきわめて合理的である。それを阻止する相撲協会にはきちんとした論理はあったのだろうか。むしろ数々の記録をもつ強い横綱に対してその功績をねぎらう意味で相撲協会の方から「モンゴル市場の開拓」という〈mission使命〉を与えるべきであったのではないだろうか。
      さらに電車内の宙吊り広告で世間とつながっているような私にとって気になるのは、朝青龍の連勝が止まる直前に電車内に踊った「朝青龍八百長相撲」という見出しである。原因と結果は簡単にはつなぐことはできないが、相撲協会が本当に伝統の革新的継承を願っていたのならば、あのような時期にでた誹謗記事に対して法的手段に訴えても朝青龍を守るべきだったのではないだろうか。そのような筋を通せない公益法人が「巡業をサボった」くらいのことであのような厳罰を科する資格はあるのだろか。
       今回のメディア報道で一番不愉快だったのは「悪いことをしたんだから、罰を受けるのは当然」というコメントしかなかったことだ。それでいけば「盗みは悪いことだから死刑も当然だ」という論理も通ってしまう。テレビが好きな模擬回答が今度は事前に一回もなかったようだが、こういう問題こそ有名人に「自分なんらどういう罰が相当で、その根拠はいかなるものか」とい発言を番組に編成すべきだったと思う。
      これから導入されるわが国の裁判員制度アメリカの陪審員のように「有罪か無罪かの事実認定」だけではなく、「量刑判断」にも踏み込むことになっている。今回の相撲協会の判定に対して異論を組織するのはメディアの責務だったと思う。
       さらに、聞きたかったのは優勝候補の力士の感想だ。優勝力士が懲罰によって出場できなかった次の場所で優勝しても「本当の一番」ではない。もしも朝青龍に勝てる、勝ちたいと思っている力士がいれば、「正々堂々と戦いたかった」というはずである。そういう声が出てこなかったということはそういう力士を抱える親方が不在だったということなのであろう。

     以上〈デラシネお坊ちゃま〉の〈朝青龍 vs 伊良部投手〉対比に基づく「グローバリゼーション問題」に触発されて、〈朝青龍 vs 相撲協会〉に基づく「日本文化の創発的革新問題」の素描を描いてみた。もちろんこれはすべて日本語のメディアを通して得た心象の再構成である。日本のマス・メディアについては菅直人厚生大臣のときの鳥インフルエンザ騒動でその危険性について考察したことがある。今更繰り返す気はしない。一つ、不二家問題についてすばらしい文章を見つけたので紹介しておく。
 「不二家はシュークリームを普及させ、ショートケーキを初めて売り出し、クリスマスにデコレーションケーキを食べる習慣を日本に広めた会社だ。ペコちゃんを作った会社だ。ペコちゃんをペコペコちゃんにさせてどうする?今まで築き上げてきた文化を壊してどうする。」
http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/essay/fujiya.html

■なお、八百長問題について触れたので、念のためgoogleで検索したところ、二つの注目すべき記事を見つけたのでコピーしておきます。私の言いたいことは二つを比べればわかると思います。

(1)日経新聞系;トラブル横綱に最後通告 理事長、引退懸念も決断

 故郷モンゴルでのサッカー問題に端を発した朝青龍に、極めて重い処分が下された。出場停止2場所に減俸。輝かしい実績とは裏腹のトラブルメーカーに、相撲協会が最後通告を行った。
 ▽苦渋の決断
 けがで夏巡業への休場届を出したはずの朝青龍が、走り回ってボールをける。1週間前にこの映像をテレビで見た北の湖理事長(元横綱北の湖)は怒りをあらわにした。ただ、当初は罰金や1カ月間の謹慎程度の処分にする方針だったという。
 しかし、日を追うごとに、協会内部の巡業部からの批判は高まった。原点は4年前の横綱昇進から自覚に欠ける行動を繰り返す朝青龍への、積もり積もった不満。親方衆から反発が一気に吹き出した。
 「あいつは意外と気が小さいから」と、厳罰で朝青龍がもう土俵に戻ってこないことを危惧(きぐ)する北の湖理事長にとって、苦渋の決断となった。
 ▽顔が代替わり
 本場所が終わるごとに帰国し、巡業に参加しても身が入らない朝青龍。特に前人未到の7連覇を樹立する2005年前後の3年間は、まさに「好き放題」の行動だった。それでも圧倒的強さを誇る一人横綱に、誰も苦言を呈することができなかった。
 だが、5月の夏場所後に若くて清新な新横綱白鵬が誕生。一方の朝青龍は週刊誌で八百長疑惑が取りざたされる。協会内の立場は微妙に変わった。6月のハワイ巡業の閉会式でスピーチを嫌がると、協会側はあっさり白鵬に切り替えた。「顔」の代替わりとも受け取れるシーンだった。
 巡業部のある中堅親方は「これまで朝青龍には何度も振り回された。あいつはもういい、という声が出ているのは事実」と顔をしかめた。
 もう一つの背景に、八百長疑惑報道で揺れる協会は、ダーティーな印象をぬぐい去るため強い処分でアピールを狙ったとの見方もある。
 ▽味方がいない
 関係者によると、サッカー問題が起きてから、朝青龍はかなり精神的に落ち込んでいるという。7月30日に日本に戻る前「おれには味方がいないのか」ともらした。
 北の湖理事長は「ここから盛り返していくためには、よほど努力しなければ」と言う。来年1月の初場所朝青龍は戻ってくるのか。力士生命は一気に土俵際へと追い込まれた。
http://sports.nikkei.co.jp/flash_k.cfm?news_id=97221

(2)livedoor;[八百長報道訴訟]協会側、講談社側とも全面的に争う姿勢

2007年08月30日18時44分トラックバック(2)
 雑誌「週刊現代」による大相撲の八百長報道をめぐり、日本相撲協会北の湖理事長が、発行元の講談社と筆者の武田頼政氏らを相手取り、総額5500万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が30日、東京地裁であった。協会側、講談社側とも全面的に争う姿勢を見せた。
 協会側は、週刊現代の6月9日号が「昨年名古屋場所千秋楽の朝青龍白鵬戦が八百長で、それを北の湖理事長が指示した」とする記事を掲載したことで名誉を傷つけられたと提訴した。
 講談社側は、白鵬の師匠・宮城野親方(元十両金親)と知り合いの女性との会話をテープに録音した内容を掲載したと反論。この日の口頭弁論でも、テープの信ぴょう性について「そのまま引用した客観報道であり、名誉棄損にあたらない」と主張した。
 北の湖理事長は、同誌の「故・先代二子山親方(元大関貴ノ花)との優勝決定戦で八百長が行われた」という記事を巡っても民事で係争中。協会側の吉川精一弁護士は「過去の話で、今回の件とは別々で争う」と話し、併合しない方針を示した。
http://news.livedoor.com/article/detail/3287664/