重畳語彙〈これはこれは・それはそれは〉

  久しぶりに『日本語文法を考える;大野晋』をめくっていたら、〈それ〉の第一義が〈我と汝とが既に知っているもの〉と捉えるべきであると出ていた。〈こ・そ・あ〉の三元系を無前提に肯定しないという点では賛成なので、違った角度から考えてみる。それは重畳語彙(superposition)に変換して意味の核を拡大し、それにより音韻イメージを抽出する方法である。以下の例で言うと〈こ・そ〉は〈眼前の対象への呼びかけ・眼前の対象の話の内容そのもの〉となり対比〈もの・こと〉が基本構造となる。

[もの+こと]   ・これはこれは。皆様おそろいで。どちらへお出かけですか?
[こと+こと]   ・それはそれは。お楽しみですね。お気をつけて行ってらっしゃいませ。
[もの+こと]   ・これこれ。そこの者。こっちへ来なさい。
[こと+こと]   ・それそれ。その話のことだけど、もっと話して。
[もの+こと]   ・これこれ、しかじかなので、よろしくお願いします。
[こと+こと]   ・それでは、よろしくお願いします。
[もの+こと]   ・これならば、結構でございます。I'll take it.
[こと+こと]   ・それならば、結構でございます。I won't take it.
[もの+こと]   ・これでは、いただくことができません。I won't take it.
[こと+こと]   ・それでは、いただくことにします。
[もの+こと]   ・それでは、いただくことができません。
[対文]   ・これはこれ。それはそれ。
[大辞泉]   ・これはこれは、ありがとうございます。
[大辞泉]   ・それはそれは、美しい人でした。

  cf くれぐれも、よろしくお願いします。
  cf それぞれに、よろしいように。
■重畳語彙と onomatopoeia
公式の場面で使われる発声語は重畳語彙。おしゃべりの場でしか使われないのは onomatopeia 。英文法で使われているらしい〈音美素 phonoestheme 〉は当面、使わないつもり。だからonomatopeia には重畳音韻とその単位が含まれることになる。今後、〈かれこれ〉のような例がたまって来れば、〈擬似重畳〉という概念が必要になってくるかもしれない。
    それと、二字漢字語をもって、正式語彙とするという規範にのっとる場合は 単純に考えると、その略語は〈畳語〉となる。だが、学校算数では〈乗数〉が定着していることを勘案すると、〈乗語〉という選択肢もありえる。あるいは「語を重ねて強める」という機能から考えると〈重ね語〉〈重語〉も候補になる。だが『大辞泉』のような〈連語・複合語〉の一方の〈連語〉という分類は日本語の深層に横たわるonomatopoeiaを中心とする造語文法の軽視に過ぎると考える。
■重畳語彙〈ひとりひとり〉


■メモ
  ・こんなんでは、受け取れません。
  ・そんなんでは、受け取れません。


  ・これから、でかけます。
  ・それでは、ごきげんよう


  ・それでは、ごきげんよう
  ・こんごとも、よろしく。


  ・こらこら、そこで泣くな。
  ・そらそら、そんなに泣かないで。
  ・あらあら、そんなに泣いて、どうしたの?。


  ・これこれ、しかじかでございます。
  ・それぞれ、さまざまでございます。


  ・かれこれ、1時間ほどいた。
  ・そんなこんなで、1時間ほどいた。
  ・それやこれやで、1時間ほどかかった。


  ・ここ、かしこに 人だかりがあった。
  ・そこ、かしこに 人だかりがあった。
  ・いたるところに、人だかりがあった。


  ×ここ、かしこで、人だかりを見た。
  ×そこ、かしこで、人だかりを見た。
  ・いたるところで、人だかりを見た。


  ・ここに、財布を置くよ。(わたしが)
  ・そこに、財布を置くの?(あなたが)


  ・ここに、財布を置くの?(あなたが)
  ・ここに、財布を置けばいいの?(私が)
  ×;そこに、財布を置くよ。


  ・ここに、置いて。
  ・そこに、置いておいて。


  ・ここいらに、財布があったはず。
  ・そこいらに、財布があるだろう?


■重畳語彙〈おいておいて〉
■擬逆語序〈重畳・畳長〉〈冗長・重畳〉