「とんでもございません」

  ビデオの整理をしていたら、NHKで上記の発声について取り上げていた。語源として近松の書物にみられる「ない・と・でも」の語句と関連付けられていた。そこから<ない>を語末の離れたところに移動したのが数十年前の識者の逆鱗にふれて、現在でも高級ホテルでは「とんでもないことでございます」と長ったらしくいうようにマニュアルが作られているということだった。
   詳しくはわからなかったが、これって妄想を喚起してくれる。以下の語句を代入してみると・・。
・もったいない、とでも言いたい
・相違ない、とでも言いたい
・違いない、とでも言いたい
・分別がない、とでも言いたい
・まちがいない・とでも言いたい
・かたじけない・とでも言いたい
・いたしかねない・とでも言いたい
・神も仏もない・とでも言いたい
・いうまでもない・とでも言いたい
・意気地がない・とでも言いたい
・潔しとしない・とでも言いたい
・意地汚い・とでも言いたい
・痛くも痒くもない・とでも言いたい
・えげつない・とでも言いたい
・もうしわけない・とでも言いたい
・とんでもない、とでも言いたい
逆引きで700以上単語が出てくるので、この辺で中断してざっとながめてみると、慣用句「〜〜のうございます」として繁茂した形がすぐ連想される。同時に、「もうしわけございません」のようなパターンもけっこう見つかる。
   しかし、上記発声が慣用されるまでには途中があったはずだが、一般的に考えると以下の二形が浮かんでくる。一つはミス日本に選ばれた山本富士子の謙遜の表明としてもつかえる句だが、もう一つはもっと頻用されていた、つまり手あかが付いていた句となる。しかし両者とも重畳句とも分類されるべきだ。
  ・トテモ、もったいないトデモ申しあげます。(謙遜)
  ・トテモ、もうしわけない、トデモ申し上げます。(謝罪)

  省略形; とてものことと承知しております。(多義)
  省略形; とてものことでございます。(多義)
  省略形; とnでもでございません。(反義)
 マニュアル;とんでもないことでございます

   ここで副詞「とても」について字書をひくと、説明に本来は打ち消し語を伴っていたが、現在は程度がはなはだしいことの意味でつかわれる、とある。語源は「とてもかくても」の省略形。さらに漢和辞典を引くとなんと<国字・迚>がひっかってきた。字の意味は「途中」とある。本来は引用符牒の意味であったとしてもおかしくない字義だ。

逆語序対< 〜ないとでも・とでもない>
類語< とでもない・とてつもない・とても・とんでもない>
重畳語< とてもとても〜〜ない>