ダンテと神曲

   藤谷道夫氏の講演会に参加する機会をえた。細部は氏の訳書『 ダンテ ;著者マリーナ・マリエッティ』で確認していただくとしてざっと印象を整理しておく。
(1)ダンテそのひと;省略


(2)神曲
  邦題は森鴎外によるもので、中国でもこの題字で通用するから定訳と考えてさしつかえない。だが原題 "Divina Commedia" のもっている心象はもっと複雑である。体言についていえば、カタカナ語のコメディの方がイタリア人の印象にちかい。つまり人生のこっけいさ、かなしさを丸ごとあつかうということである。用言の方は「聖なる」という訳語で西欧でも流通している。だが、現代イタリア語では「すごい」という意味でもよく使われている。だから結論からいえば『すごい喜劇→ The Comedy 』としても、まちがい訳とはいえない。
    そもそも一つの語の意味については少なくとも4つの意味を読み取りながら、詩を解釈するというのが西欧レトリックの基本である。大きく云えば字義(歴史)と寓意(霊的)の解釈で、寓意の方は文字通りの寓意(メタファ)と道徳、そして超越的の三つに分かれている。字義というのはその単語が負っている歴史的な形態と意味の変遷である。(P243)
     さらにこの二つは詩と聖書の解釈をわける重要な概念であった。つまり詩においては字義は「美しき嘘」とされ、寓意によってのみこの虚構は真の意味を獲得する。一方、聖書では字義はその通りに、つまり現実に起きたこととして解釈されなければならない。ダンテは『神曲』を聖書的に解釈されるべきものとして書いた。それが日常においてはあり得ないとしても神によって選ばれた詩人には「真実の幻視能力」が備わっているという神学理論が当時は健在であった。逆にいえば、ユダヤ教以来の神に選ばれた預言者という概念を体現した最後の中世人がダンテであった。なぜ最後かというと、預言者の存在はローマ法王庁にとって危険であったからである。
     事実、ダンテの名前は、卑しむべき家名として、子どもたちのわらべ唄にまで埋め込まれて、イタリア中で20世紀まで民間に伝承されてきている。(この項はケーブルテレビからの受け売り)
    『神曲』の着想は1293年ごろ、つまりダンテがまだ政治の政界に本格的に参与して華々しい活躍をする以前とされている。だが、完成は亡命も末期の1322年ごろである。つまりほぼ30年近い歳月が流れている。(ここで私はダヴィンチの「モナリザ」を連想した。)なぜそんなに長い年月が必要だったのかについての斬新な解釈は1965年にチャールズ・シングルトン(米国人)によってもたらされた。それは詩に埋め込まれた秘数の存在である。これは80年代には西欧では定説となっている。
     つまり天国・煉獄・地獄というのが、「三位一体」の秘数を顕していることまでは誰でもわかることであるが、この3が各章における節数、その中の行数、一行中の語数、韻律法の種類などに意図的に配置されている。さらにベアトリーチェには秘数9が、ダンテには7がという風に人物にも数の暗喩が割り当てられて、それがまた何番目の行数で取り扱われるかまできっちりと連動している。つまり『神曲』とは表面の章句を取り払うと、そこには数の殿堂ともいうべき構造が、それもいたるところに対称性、シンメトリックな構成をもって立ち現われてくるものである。


(3)俗語論の意義;省略


(4)秘数についてのメモ ;このブログの中間総括になります。
イ、平面秘数(ピタゴラスの三角形)

基数;3*3+4*4=5*5 、3+4+5=12 、3*4*5=60
両三角形の0;底辺5の重なり三角形 二上山
両三角形の0;斜線5の長方形 楕円、三角点法、変形ダビデの星
両三角形の0;斜線5の四角形 西洋のkite・凧・盾のメタファ
両三角形の1;底辺6、高さ4の長方形 or 平行四辺形
両三角形の2;底辺8、高さ3の長方形 or 平行四辺形
一辺5の正方形;面積1の正方形+4つの2*3の長方形  面積1の正方形+4つのピタゴラスの三角形

ロ、立体秘数

1*1*1=1   1=1
2*2*2=8   8=8
3*3*3=27   2+7=9  三位一体
4*4*4=64   6+4=10=2*5 八の二乗数、菱形、真球、五旁星
5*5*5=125   1+2+5=8=2*4
6*6*6=216   2+1+6=9
7*7*7=343   3+4+3=10=2*5  七つ星
8*8*8=512   5+2+1=8
9*9*9=729   7+2+9=18=2*9
10*10*10=1000   1+0=1