金星;明けの明星・宵の明星

midoka12012-08-01

   平凡社から上梓されている「イメージの博物誌18」の『ミステリアス・ケルト;ジョン・シャーキー著1975 鶴岡真弓訳1992』を繰っていくと、なかなか面白い。さらに7世紀のサクソン人のブローチは眺めていてあきない


1〉鍛えられた記憶力による伝承か書記テキストの訓詁か
   表紙の簡潔な要約;ケルトの宗教の中核にひそむ秘儀とその本質を体現する儀式は常に捉えがたいものである。往々にしてケルトの神秘論者は妖精や霊的世界をロマンティックに強調するあまり戦士社会に生きたケルト人の精神性や彼らが宗教を持っていたという事実さえも覆い隠してしまった。詩人や祭祀集団の鍛えられた記憶力によって保持された古代の伝承は法や伝説や部族の教えをも不朽のものとしたため、文字を書き記すと言う行為を不必要たらしめた」
    これは、現在読み進めている『漢字テキストとしての古事記神野志隆光2007』の帯にある「神話や伝承を書き留めたのではないー漢字で書かれたことの意味を根本的に問う」と対照すると先史時代にたいする二つの態度が鮮明に理解できる。一方は汎大陸文字への隷従を拒否し、イメージ以外の手がかりを残さなかったが、他方は漢字という世界標準文字への隷属を成し遂げたということである。
     両方の試みの成功と失敗は太陽神崇拝の古層にあるものを読みと解こうとする意思の不十分さからくるというのが、私見であるが、いくつかの例を拾うことができた。


2)太陽神信仰以前の星辰信仰を仮構する
      図1は有名なストーンヘッジの写真であるがアングルが真逆。ストーンサークルの中から空を見上げている。魚眼レンズによって多少強調されてはいるが、これが本来の使い方であろうと、妙に納得する。カンボジアの寺院、エジプトの神殿、マヤ遺跡に至るまで、学校とマス・メディアで取り上げられるのは春分の日の太陽の位置の正確な把握という文明の軸であるが、これは建造物の目的ではなかったと思う。あくまで北極天を巡る正確な夜空の星の位置の把握が目的だったのだと思う。それを経年で保障する技術が春分点の正確な把握と建造物への埋め込みであったと考えないと古代の人々の思考がぼやっとしか理解できない。
   これは万葉集の人麻呂についてのp26の記述と対照するとはっきりとしてくる。人麻呂の歌で制作年のわかっているのは巻十・2033だけでそれは庚辰年だというのである。万葉集の「秋の雑歌」に納められた七夕の歌ほぼ100首の中の一首である。
    現代日本語話者は、「庚辰」ときいてもまず浮かぶのは「庚申」であるが、前者は干支の17番目で後者は57番目。「庚」は7の義で、ここからは「長庚」すなわち「夕星」すなわち「金星」が導かれる。当然「七夕」も「庚」にからむはずだ。
    ここは専門家にぜひとも問いたいのだが、かの庚辰年の3月あるいは7月の金星の位置はどうなっているのだろうか。そして学会的には天武680年と天平740年の両説で分かれているらしいが、金星の位置が重要なのだと考える。


3)金星について、デカルト焚書坑儒したガリレオニュートン主義にたつ学校理科はどう教えるか
   『金星・地球・火星;朝倉書店1986』は「1610年ガリレオは原始的な”光学筒”をつかって金星をながめ、この惑星の満ち欠けを発見した」からはじめる。だが、アフリカの今でも狩猟生活をする人々は東京から筑波山の頂上に現れる動物種を同定できるほどの視力に恵まれているのに、金星の満ち欠けに無知であったと考える方がおかしいのではないか。
   金星の特徴は満ち欠けすることと、朝夕に現れて上弦下弦の月と似た挙動をすることにあったのは歴史的事実であるはずだ。さらにこの本には自転周期や内部構造については取り上げられているが公転周期には直接触れていない。


4)アメリカの小学生は金星について何を習うか。
   ”Evrything you need to know about science homework;2005”によれば公転周期は225日である。おぼつかない計算でざっと見積もると地球から見ると遭遇周期は300日を超えるはずである。とすれば、この星こそが1年に一度会うことが可能な織女ないし、牽牛ということになる。


5)室町期の日本人は七夕をどう取らえていたか
    もっとも365日とのずれは余りに大きく、室町時代には「1年に1度あう」という定義そのものが大衆的に否定され、お伽草子「天の稚彦の物語」では舅の鬼に「月に一度」と言われたのを聞き違えた姫が泣く泣く「一年に一度」と納得したという落ちになっているらしい。『七夕の美術;静岡市立美術館2012』。
    つまり満ち欠けする金星の満ち欠けする月との同一化が完了している。民衆の視力が衰えたのか、古代の伝承が完全に見失われたのかであろう。




6)なお、「明けの明星・宵の明星」については以下でも考察してある
「ある実務者の論理 p16」http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/russell.pdf


7)イギリス南部のトーキー http://d.hatena.ne.jp/midoka1/20100523



8)ウエールズ六曜
   虹の色を六色とするのはイギリスの特徴で、聖女の象徴であるlilyは六弁花。日本では虹の色は七色で、役所のカレンダは七曜制だが、準公営の焼き場は仏滅ごとに休むから六曜制も根付いている。
   ここでは図45で19世紀に描かれたOGHAM文字とウエールズ語を小学生に教えるための美しいalphabet表が登場する。これはしっかり6*6の表でそこに34文字が提示されている。
   不思議なことに日本のイロハも7*7の表の中に47文字を入れてセットにしていることだ。二つの空位は相通しているのか?







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