畳語と重語

    twitter佐竹昭広が色対偶についての論考を残していることを知って、調べ始めた。もちろん京大教授、つまり文部官僚だから戦後の翻訳言語学のおぞましいまでの党派性と無内容さと正面からぶつかるような字面は残していない。だが、マリノフスキーに加上する文章にはなんともいえない機知が感じられた。.amzonで見つけた 『和語と漢語のあいだ−宗祇畳字百韻 会読−』をとり寄せてみた。あらためてWebでみると、文部官僚としては「万葉集研究の統括」を行い、研究者としては宗祇を中心にした近世初期の「洒脱軽妙」に注力していたようである。
    そして本を開くと、なんと、初っぱなに上記の対語が出てきて、ガクゼン!今頃いわないでよー、と1985年の本に向かってののしってもせん無いけど。
     学校で習った、そして今も辞書に出てくる「畳語」は宗祇の時代前後では今でいう「二字漢字語」の意味で流通していたというのである。そして現在の「畳語」から「オノマトペア」までをカバーする概念が「重語」だったというのである。
    辞書を見ると「畳語デフゴ」「重語ヂュウゴ」とあるから、前者は「イロハの時代」から和語化していたという認識なのであろう。だが「重」は熟語の中では「チョウ」「ジュウ」の両様でよまれる。「重器チョウキ」「重機ジュウキ」。だから前者であれば「重器テフキ」と詠まれた時期があったはずである。さらにいえばこっちのほうが「古体」と考られる
    そうすると畳語「貴重」は「アテテフ」と読んでいた可能性がでてくる。発声すれば「アテー」ともなる。すぐ連想するのは「あでやか」。さらには「貴宮」。となるとこれは「貴重の宮」の屈曲形ではないのか。


    という枕は置いておいて、これで「イロハとアメツチ」「カタカナとヒラガナ」を一挙に串刺して「日本語書記通史」を書き上げるという志の具現化に一歩近づいた。なぜならば、以下の対照表〜つまり見取り図〜の完成が目前に見えてきたからである。

理科   物質   粒つぶ子   ぶつぎり子   原子   素粒子
英語   material   particles   molecule   atom   elementary particle
説文         旦里   千里
屏風   畳文   畳語   畳字   畳音   畳韻
堅笠   重文   重語   重字   重音   重韻
逆語序   対文   対語   対字   対音   対韻
両方揃い   双文   双語   双字   双音   双韻
階層関係   階文   階語   階字   階音   階韻
から笠連判   回文   回語   回字   回音   回韻
職工工人   材料   粒つぶ   粉ごな   千里ぢり   塵泥ちりひぢ
織工工女   ぬの   きれ   ひも   いと   すぢ


    まったく理科教育には90年代から振りまわされてきたのだけど、国語学の方で「重の字」隠しが組織的に行われてきたとなると、全体の見取り図が違って見えてくる。少しだけ言っておくと「宗祇抄」に出てくる23番と48番の歌人の名は「ひらがな」で出てくるが、当時のあるいは歌学の人々の常識である真名をそろえてならべると、以下。
23;千里(重里→重り)
48;重之(おもし)
     実務にかかわりたくない殿上人にとにとってはわずらわしい限りの「重の字」こそ、地下人世界では最重要な概念だったのである。「おもし」と「おもり」を弁別できずになんのご奉公ができようか。

参考論考
「一貫性の科学・確実性の技術 http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/consist.pdf
「四字熟語「度量衡重」 http://homepage2.nifty.com/midoka/papers/koujyuu.pdf


2013.2.14追記
【現象・物象】
 図書館で『現象学;新田義弘』が講談社学術文庫に今頃入ったことをして、ちょっといやな気持ちになって家に帰ってきた。その時借り出してきた『宗祇;小西甚一』を読み出したら、「物象」という言葉が出てきた。辞書には「現象」と対を作るとは書いてないけど、これならなんとなく判ったように気になる。事象ではあまりに当たり前でパンチが弱いと考えての造語であろう。
   だが、定着すべき畳語は【存在・在存】であるべきだ。これは【存念・存知】と【在位(在居)・在主】として日本語史の中でしっかりとつちかわれてきた実績がある。
というより二大文末詞
【ぞんじております・でございます】の語源そのものなのである。
そしてここでも主語はそれぞれ一意に決まる。
・私は〜を存じております
・あの方は〜でございます。




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