お化け煙突

   昔、「お化け煙突」の話を聞いたことがあって、出所を知りたいと思っていたのだが、ひょんなことから黒島伝治というプロレタリア文学者が1930年より以前に小説に採りあげていたことがわかった。
   それは、隅田川の河岸にあったらしい。
   「煙突は見る者の場所によってMの方からは、三本に見え、Tの方からは二本に見え、Oの方からは四本に見える。それは生きているように変幻出没した。だから、それはお化け煙突だった。」
   なぜこの名前が懐かしいかというと、この煙突を題材に、自分で小さなエッセーを書いたことがあって、今でも気に入っているからだ。文末に再掲しておく。
でも、その前になぜ、この小説に行き当たったのかも目盛っておく。それは先日、「鴉暮」と自分で書いてから気になって市の図書館の蔵書検索で〈カラス〉と入れてみたからだ。400冊以上がかかってきたのは〈からす〉〈ガラス〉〈鴉〉〈烏〉がかかってきたからだ。その中に『渦巻ける烏の群れ』と『お化け煙突』を所収した全集があったというわけだ。それで、〈サーベル〉〈サボ〉〈甲種合格〉〈ザンパン〉〈ロシア〉〈背嚢〉など、死語がずらりと並ぶ世界へ行ってきたのである。